イウリさんのワインをはじめての飲んだのはフィレンツェのレストラン。
バルベーラのワインが美味しくてずっと心に残ってて、一年後、試飲会で彼の名前を見つけてイウリさんの試飲テーブルへ会いに行きました。
そして数年越しで、やっとワイナリー訪問が実現したのです。
レストランで飲んだワインが「この生産者に会いに行きたい」と思わせるほどの力があるって凄いですよね。
ブドウ畑に一面に覆われたバローロ地区やバルバレスコ地区から一旦離れ、アスティの町からさらに北のCerrina Monferrato(チェッリーナ モンフェッラート)という地域まで車を走らせます。
景色はガラリと変わり、ブドウ畑はほとんどなく、うっそうと木々が生えています。
実はイウリさんはこの地域で唯一「残っている」ワイン生産者。
その昔、「コンタディーノ」=農民が多くいて、ワイン造りも盛んだったのですが、1958年から5年連続で雹が畑を襲い、一年また一年と耐えたものの、流石に何年も続いてはそれを元に生活していた人々は畑を諦め、街へ働きに出る決断をするしかなかったのです。
その頃ちょうど、トリノではフィアットが全盛期だった頃でもあったようで、皆フィアットへ働きに行ったのだとか。
訪れたのは日曜の朝、村の教会の鐘がミサの時間を告げるためにカーン、カーンと鳴り、ご老人たちが教会へ向かっているのどかな雰囲気。イウリさんの自宅兼ワイナリーはそんな村にあります。

まずは畑を見にお散歩。
20haある畑は谷になっていて、南向き斜面と北向き斜面があります。

南向きには熟成向けのブドウ品種、北向きには繊細なブドウ品種や白が植えてあります。
彼は、バルベーラやピノ・ネーロ、グリニョリーノといったピエモンテ特有の品種も植えていますが、加えて面白い品種を2種類植えています。
一つはSlarinaズラリーナ。
よくある話ですが、地元に昔からある品種というのは外から別の都合のいいものが入ってくると忘れ去られ追いやられてしまいます。
手入れがしやすい、リスクが低い、収量が多い…
イウリさんの育てる美味しい元気のあるバルベーラ品種とズラリーナ品種の写真がこちら。
バルベーラの方が房がぎゅっとしていて、実もいくばくか大きいです。
ズラリーナは比べてみると実が小さく房が詰まっていません。(これは古代種に近いとこの特徴があるみたいです)
収穫にも手間がかかり、採れたブドウからは通常のブドウなら約70%の重さがワインになりますが、ズラリーナは苦労した後に取れる実も少なく、ワインになる部分は60%と低くなります。
なぜそこまでしてズラリーナを育てるのか?
多分、ただ彼はこの土地が大好きだから。父も農民だった。そして全て彼から教わった。
彼も育てていたブドウを今も子供達が大きくなった時も残していたい。
きっとそんな思いがあるのだろうとイウリさんと話していて思いました。
ブドウの木の話、剪定や芽かきのことを聞くと、大切なのは木とブドウの健康状態を保ってあげて、「木が分かっているから」その自然の力が最大限発揮されるよう手助けしているという姿勢でした。

お家に近い畑にお野菜が植わってます。
「あぁ!なんてこった、イノシシにやられたよ!家のすぐ裏なのにここまで来たんだなぁ!」

トウモロコシがやられています。
リアルに昨晩やられちゃったみたいです😥
トマトは大丈夫だったようで、みると何種類ものトマトが並んでいます。

ダッテリーノ、チリエジーノ、コストルート、ピエンノーロ…
「何も使ってないから、美味しいよ」ともぎたてを味見させてもらいました。

すごくいい香り!酸味と旨味があって美味しいです。
いろんな種類のトマト畑羨ましいなぁ(笑)
イウリさんは醸造に小さなコンクリートタンクを使います。
お父さんも使っていたタンクを譲り受けてきれいにし、再生させて使っています。
代々。昔ながらの。がここにも見受けられます。

色々な大きさのコンクリートタンクがあるのは品種を分けるためだけでなく、温度調節をしないため。
発酵中は温度が上昇しますが、入れ物が小さい方が温度の上昇する率も低くなります。
少しオタク話になりますが、ワインを嗅いで「パイナップルの香り」とか「グレープフルーツの香り」とか感じるのは、その香りの元になるエステルがあるからです。ブドウ本来にその元があるのですが、様々な香りを生み出す要因の一つに発酵の温度が関連しています。
「温度調節をすると、人間がワインの香りをコントロールできるだろう。僕はそれをしたくないんだ。ワインが自然に出来上がるようにしたい。だから温度調節はしない。」
代わりに自然に近づければ欠陥のあるワインになるリスクもあります。それを避ける数々の工夫の中の一つが「小さなコンクリートタンク」なのですね。
余談ですが、快適なワンちゃん小屋にもなるようです(笑)

うわぁー!ついに、試飲です。
しかも、イウリさんとゆっくり座って試飲できる!!
チーズまでご用意してくださいました。

近くの村で牛を放牧して作っている夫婦のものだとか。
チーズ好きにはたまらない風貌です。
先ほど、書いた面白い品種の二つ目はBaratuciatバラトゥチャットという白ブドウ。
イウリさんは長年赤しか造っていなかったのですが、周りからぜひ白を造って欲しいと言われ続け、自分の納得いく白ブドウを探していました。
トリノ大学では地元の土着品種、特にもう栽培されていないような品種を実験的に育て、サンプルを持っているそうです。その中から色々試したところ、たどり着いたのがこのバラトゥチャット。香り特性がリースリングにも似ているため親戚かと思われ、ドイツやフランスから持ち込まれたのではとDNA検査を行ったところ結果どこにも見つからず、多分ピエモンテの土着品種だろうと言われているそうです。
Barat 2018

ラベルが(笑)
セージやサンブーコの花、後味に苦味のある柑橘の皮。
La Rina 2018
先ほどのズラリーナ種です。香り高くて、丸くて、口には軽いのにちゃんとタンニンが受け止めてくれて。イチゴやナツメグ。美味しいんですよもぉ。

Natalin 2018
イウリさんのおじいちゃんの愛称から付けられた名前のワイン。
Grignolinoグリニョリーノ種はおじいちゃんが大好きなワインだったそう。
隠さずに言いますが、私もイウリさんのこのグリニョリーノ種のワインとっても好きです。
バルベーラ、ネッビオーロやピノ・ネーロに比べてマイナーなイメージのグリニョリーノですが、イウリさんのはストレートで雑味がなく、でも深みもありとても美味しいです。
Nino 2018
ピノ・ネーロ。
実はワイナリー訪問をお約束するためにメッセージのやり取りをしていたのですが、イウリさんのプロフィール写真(小さいじゃないですかあれ)に注目した私。
肩を組んで並んでいる白髪の元気そうな男性…これ*ドミニク・ドゥランだ!
*ドミニク・ドゥランはフランス、ブルゴーニュ地方の自然派ワイン界で有名な生産者
その旨を聞くと、実はイウリさんドゥランととっても仲良しだとか。なんと彼の畑のピノ・ネーロはドミニクから枝分けしてもらい植樹した子達なのです。
見事にイタリアの地でピノらしさ、イウリさんらしさを表現したピノ・ネーロ。
たまらないです。
Malidea 2018
ネッビオーロ。
18ヶ月大樽。12ヶ月瓶熟。
畑も醸造も丁寧に造ってるから出る複雑味。
いい酸味、口に残る鰹節のような旨味。
2018年は完璧な年だったとイウリさん。でも2017年はネッビオーロには暑すぎる年。出来栄えに満足いかず量り売りにネゴシアンに売ってしまったそうです。納得いかないものを自分のワインとして売ることはしません。
Rossore 2017
初めて出会ったイウリさんのワイン。バルベーラ。
24ヶ月大樽。6ヶ月瓶熟。
草っぽさ、タイム、プラムの凝縮した果実味…香りがしっかり開いていて、飲みながらため息が出ます。
どの子もブドウの特性が土地の特性と合わさって、イウリさんだけにしか造れないワイン。

バルバレスコやバローロ地域と比べて、全く無名の自然に囲まれた村で、こんなにポテンシャルがあるワインを造っているイウリさんに脱帽です。
(彼のワインは人気がありすぎて、ほとんど予約している常連先のみにしか届きません)
イウリさんは、この場所で美味しいワインができることを証明することで、この村にまた「農民たち」に戻ってきて欲しいとメッセージを送っているのです。
